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大阪家庭裁判所 昭和41年(家)4902号 審判 1967年7月09日

申立人 木田ます(仮名)

相手方 木田孝(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、扶養料として、昭和四一年四月より一ヵ月金五、〇〇〇円を毎月末日限り(既に期限を経過した分は本審判確定の日の翌日限り)送金または交付して支払うこと。

理由

本件調査の結果次の事実が認められる。

一、相手方は申立人の長男であり、申立人には現在配偶者なく、相手方の外に子はない。

二、相手方は中学卒業するまでは申立人の手元で養育されたが、卒業後は住込みで働くようになり、現在は上記住所地に於て、独立して冷凍機の設置請負業を経営しており、家族には妻(当三五歳)長女(当九歳)二女(当六歳)があつて、同居している。

三、申立人は戦災により夫に先立たれて以来、他家の子守りや食堂の炊事婦等住込みで働いていたが、二、三年前より脊椎カリエスを患つており、働けなくなつたため、相手方より現住居の提供を受けてひとり住いをなし、同人よりガス、水道、電気等の支払いの援助を受けて暮している。然し、申立人の収入は亡夫の遺族年金月額金五、〇〇〇円があるのみで他に収入はない。

ところで、労働科学研究所の東京都における調査により、算定された最低生活費を、大阪市消費者物価指数の変動に即してこれを算出すれば、昭和四一年一二月現在の物価水準に於ける最低生活費は一万一、九〇〇円となるところ、大阪も巨大都市である点から東京都と同程度の生活費を要するものとみてよく、申立人は独立して生計を維持する六〇歳以上の既婚婦人であるから所謂労研方式によれば同人の最低生活費もこれと同額となる。

1万1,900(円)×{(80+20)/100} = 1万1,900(円)

従つて申立人が最低生活をするに不足する額は月額六、九〇〇円であるとみられる。

四、相手方は現在株式会社木田鉄工所の代表取締役であり、その収入について按ずるに、東住吉区長作成の回答書添付の「昭和四一年度市民税、府民税、特別徴収税額の納税者への通知書(写)」記載の数字から逆算した昭和四〇年度の総収入は金九六万円であり、同通知書(写)による課税総所得額五三万八、八〇〇円から所得税額を算出すると金六万四、二〇〇円となるから、同人の総収入額から所得税、市民税、府民税を差引いた額は八六万九、〇〇〇円である。

右は昭和四〇年度の所得から、昭和四一年度の税額を差引いたもので、正確ではないが、少くとも昭和四一年度の所得が前年より減少していない限り、上記金額を下廻ることはないわけであり、そのような事実は認められない。従つて相手方の総収入は一ヵ月約七万二、四一八円とみてよい。

五、上記の結果に基いて相手方の最低生活費を計算すると、

相手方(120)・妻(80)・長女((55))・二女(45)として。

1万1,900(円)×((120+80+55+45)/100) = 3万5,700(円)

月額三万五、七〇〇円となる、従つて相手方の収入ははるかにこれを上廻つており、申立人の上記不足分六、九〇〇円を負担しても尚、相手方の生活には余裕があり、相手方の社会的体面をそこなう程の負担とはならないものと思料されるところ、相手方は申立人に対し、家屋を提供し、且つ光熱費水道料の支払を為している点を考慮し、一ヵ月金五、〇〇〇円をもつて相手方が申立人に対し負担する扶養科の額と定めるのが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 矢部紀子)

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